ビタミンの力で、肌と心をポジティブに

レチノールは朝に使ってもいいの?

レチノールは、様々な肌トラブルの改善に効果が期待できる成分として注目が集まる成分ですが、「朝に使用してはいけない」という噂もあり、ご質問をいただくこともしばしば。

そこで今回は、青山ヒフクリニック院長でビタミンC研究の第一人者である亀山先生に、詳しくお話を伺いました!

レチノールは朝使用しても問題ない?

結論、問題ありません。

でもなぜ、レチノールの朝の使用はNGと言われるようになったのでしょうか。
事の発端は、2010年に出た「パルミチン酸レチノールを外用後に紫外線にあたると安全性に問題あり」という内容の論文*¹です。

そこから、レチノールは紫外線にあたってはいけないという話が出回ったのだと思いますが、この論文は、
メラニンを持たず、ビタミンCなどの抗酸化剤の少ない角層の薄いマウスでの実験です。
これは人の皮膚とは異なり、光により非常に発癌をきたしやすいのです。

一方、人の皮膚は、紫外線を吸収するメラニンを持ち、皮膚が厚く、ビタミンCなどの抗酸化剤を豊富に持っています。

 

下の図は、マウスとヒトの皮膚断面図を示したものですが、
左が、メラニンを持たないマウスの背部の皮膚
右が、20代女性の顔の皮膚
の断面です。

マウスの皮膚は非常に薄く、表皮細胞は2,3層しかありませんが、
ヒトの皮膚は厚く、表皮細胞は10層以上あります。

それぞれの皮膚で紫外線を照射した場合、下記のような変化が起こります。

 

★メラニンを持たないマウスにパルミチン酸レチノールを外用して紫外線を照射した場合(イメージ)

紫外線は皮膚に活性酸素を生じ、活性酸素は蛋白にダメージを与え、過酸化脂質も形成して
DNAに変異を起こし、発癌を引き起こします。

パルミチン酸レチノールは、紫外線だけでなく活性酸素を吸収してその発癌効果を抑制しようと頑張るのですが、パルミチン酸レチノール自体も紫外線により光変性を生じ遺伝子の変異を引き起こしてしまうのです。

この反応を図で示すと下記のようになります。

上の図で①となる部分は、抗酸化作用を発揮し活性酸素を消去して炎症を抑えるのですが、②と③となる部分では、構造が不安定で、紫外線にあたると自身が活性酸素となり、遺伝子を傷つけて発癌を引き起こす原因になってしまいます。

本来、酸化・変性したレチノールを抑えるのは、皮膚のビタミンCやE、グルタチオンですが、皮膚が薄くメラニンを持たないマウスですと、これらが少ないため変性を抑えられず発癌を引き起こすのです。
また紫外線を吸収するメラニンもないので、紫外線を照射すると大量に皮膚に吸収され、大量の活性酸素を生じます。

 

 

★人の皮膚にパルミチン酸レチノールを外用して紫外線を照射した場合(イメージ)

一方、人の皮膚の場合は、紫外線を照射すると、メラニンにより吸収され少量の活性酸素の発生でとどまります。
また、活性酸素は皮膚に豊富に存在するビタミンCなどの抗酸化剤で消去されます。
抗酸化物質はレチノール光変性物や過酸化脂質の産生も抑制し、遺伝子の変異を抑制して光発癌を抑制します。

特に人体におけるビタミンCの濃度は、脳や脳下垂体よりも皮膚の濃度のほうがはるかに多いため、紫外線による活性酸素をほぼ完全に消去して、レチノール光変性物やDNAのダメージを抑制して、紫外線による皮膚のダメージや発がんの可能性を抑制します。

 

また紫外線にあたると、Nrf2という抗酸化転写因子が活性化して、表皮細胞の中でグルタチオンが次々と産生され放出されます。
放出されたグルタチオンは活性酸素による細胞のダメージを消去し、更に遺伝子的にダメージを受けた細胞を除去して発癌を防止します。

 

また上記以外にも、体内では様々な反応が絶えず行われており、それぞれの成分がチームを組んで強力に活性酸素を消去しています。

上の図のように、レチノールの酸化を抑制するのはビタミンC(アスコルビン酸)やビタミンEですが、その結果ビタミンCやEは酸化します。
酸化したビタミンCを還元するのはグルタチオンです。
その後グルタチオンは酸化しますが、この酸化したグルタチオンを還元するのが、NADPHというビタミンB3由来の電子の許容体です。

また、ビタミンABCとグルタチオンは、サーチュイン(SIPT)と言われる長寿遺伝子と、AMPKというリン酸化酵素を活性化してミトコンドリアを活性化し、代謝を促進します。

このように、皮膚内部では各成分がドミノ反応を起こし、強力に活性酸素を消去しているのです。

 

まとめ

上記の見解から、2010年に出た「パルミチン酸レチノールを外用後に紫外線にあたると安全性に問題あり」という内容の論文*¹はヒトには当てはまらないと考えます。

また、2013年にジョンソンエンドジョンソンからも人には当てはまらないという趣旨の論文*²が出ています。

レチノールが登場して約40年になりますが、シリアルやミルクなど毎日摂取する食品にも添加物として配合されています。
これらの食品を摂取して皮膚癌が生じたという報告はありません。

さらに、皮膚癌の治療や乾癬、ニキビの治療にビタミンAは内服や外用で使用されてきましたが、これらの患者さんで発癌が誘導されたという報告もありません。
外用よりも内服のほうが、血中濃度が上がりやすく人体への影響が出やすいのですが、それでも報告はありません。

2022年10月にEU消費者安全科学委員会 (EU Scientific Committee on Consumer Safety)は、パルミチン酸レチノールを含むスキンケア製品についてsafe と再評価しています。

 

結論、レチノール配合のコスメを朝使用しても問題ありません。

ただ、エイジングケアの観点から日焼け止めは必ず併用しましょう。

 

 

▼▼もっと詳しく知りたい!という方は▼▼
青山ヒフ科クリニック院長:ドクター亀山のブログを読んでみましょう!
・パルミチン酸レチノールは夜だけでなく朝も使用できます:サンスクリーンも併用しましょう
https://ameblo.jp/aoyamahihuka/entry-12775318113.html 

 

【取材協力】青山ヒフ科クリニック院長 皮膚科専門医 医学博士 亀山孝一郎
1980年北里大学医学部卒業。
その後、北里大学皮膚科に入局。1986年1月~1989年5月まで、世界最高峰の研究機関である米国立衛生研究所(National Institutes of Health, NIH)にて、メラニンの生成について最新研究に没頭。1999年に、ニキビは感染症であるというそれまでの常識を覆す。“ニキビは感染症ではない、皮脂の過剰分泌を背景とした活性酸素病であり、アクネ菌はその悪化因子である”という趣旨の論文を発表。同年、医療法人社団星美会 青山ヒフ科クリニックを開業。また、ビタミンCの誘導体が天然型の何倍も肌に吸収されることを、世界ではじめて証明した。いまでこそニキビにビタミンCが効くことはあたりまえになったが、“ビタミンCのニキビに対する効果”という論文は当時驚きを持って迎えられた。
2020年5月発売「毛穴道」(講談社)を監修。

 

*1 Photocarcinogenesis Study of Retinoic Acid and Retinyl Palmitate in SKH-1 Mice (Simulated Solar Light and Topical Application Study)
*2 Vitamin A and Its Derivatives in Experimental Photocarcinogenesis: Preventive Effects and Relevance to Humans